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かんかんむしはうたう
かんかん虫は唄う
吉川 英治
「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页
南京豆の会
トム公は、ポケットへ手を突っこんで、五、六十銭ほどの、銅貨と銀貨をつかんだ。その中から白いのだけを拾って、つき出した。
「あら、授業料は、いらないわ」
「こっちから上げるわよ」
と、女たちは、接吻の雨を彼に投げた。
「この間の借りだよ」
トム公は、ひとりの女にそれを渡すと、逃げるように駈けだして、元の雑沓の中へ、小魚のように、泳ぎこんでしまった。
蓄音機屋のまえの綺麗な一団も、もうそこにはいなかった。
南京豆の会
時計屋の時計塔が、夜の空に、十一時の指針をきっかり示している頃、その大きな時計問屋の地下室では、広東服のお光さんが欠伸をしていた。
店頭の方で前後して鳴る無数の時計の振子がてんやわんやに聞こえてくる。
お光さんは、実は、ここの少し変態なといわれている老主人の妾である。居留地の清国人と連絡をとって、時計の密輸入で資産の大をなしたという隠居である。で、そんな関係から、妾のお光さんは、南京街の李鴻章の地下室も愚連隊の巣にしてしまい、此店の地底倉庫も、みんなとの会合場所に利用する特権をもっている。
やがて、彼女の待つ足音が断続して訪れた。男のくせに、いつも薄化粧をしているバプテスト神学生の三浦、紺がすりの羽織紐を首のうしろへ引っ掛けている今村、西洋乞食の樫井、新聞配達の西村といった順に、ぼつぼつ不良色が濃く