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かんかんむしはうたう
かんかん虫は唄う
吉川 英治
「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页
宣戦
「あ……」
理平も首を捻じ向けた。
そして、三人とも恟ッとしたように浮腰を立てかけると、そこの幌を、海軍洋刀で十文字に切り破って、メリケン刈の頭を突き出した少年マドロスが、にっこと笑って、
「大将、今朝ほどは失敬」
と、言った。
宣戦
「こらっ、そんな所へぶら下がッちゃいかん。降りろ、怪我をするぞ!」
少年マドロスは、狎々しい眼で、理平の襟元から車内をジロジロと見廻した。
「怪我をすりゃ、病院に入れてくれるだろう。だが、ご心配はいりませんや、馬丁台に足を掛けているんだから」
「あぶない! 穢しい! 降りろ」
「いいよ、グランドホテルまで送って行くよ」
「ああそうか、おまえ――波止場乞食か。これをやる。寄るな」
理平は、あわてて、五十銭銀貨一枚を彼の手に握らせた。彼は掌の銀貨に軽蔑をくれて理平の顔へ抛りつけた。
「何をするッ」
「おれを、波止場乞食ッて言やがったからよ。こう! おれにゃ、立派な商売があるんだぞ」
「なんだッ貴様は」
「今朝も、電話で言ったじゃねえか、よく覚えとけよ、おいら、かんかん虫のトムってんだ」
「あっ、今朝のは――おまえか」
「おれだよ。紳士だろう、ちゃんと、電話で、お目にかかることを、断っておいたんだから」