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かんかんむしはうたう

かんかん虫は唄う

吉川 英治

「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页

青空文庫

朝のうち

「そんなことは、トム公が、最初から断言しているじゃないの」

「そこで、どうしたんだ、店では」

「狒々旦那は、考えておくから、あしたもういちど電話をしてみて下さいと、軽く断ろうとしたのよ。――だけど私、そばからすすめて、無理に品物を預からしたのよ、その男も、急場に金がいるんだから、置いていってもいいと言うのさ。……面白いだろう、明日の午後二時頃には、もういちどその男が、店へ来ることに仕掛けたのだから……」

「よし、そいつは、おれが捕まえる」

と、今村や二、三人が競い立った。

「で、捕まえたら」

「わたしとトム公とで、十二天の上で待っているから、連れて来てもらいたいわ」

お光さんは、指環のサックを、広東服のポケットに納めて、

「高瀬の方の手段は、それから考えたっていいしね……」と南京豆を割った。

その晩の話は、それですんだ。

「居留地のクラブへ行こうぜ」

「だめだよ、君たち」

「どうして」

「李鴻章は、上海へ高飛びしちまったから」

朝のうち

千歳の女将は、朝詣りの帰りを、呼びこまれた常盤町の金春で、三十分ほど縁喜棚の下でしゃべりこんでいた。

熱い塩桜の湯を、手にのせて、

「おや、豆菊ちゃんは、見えないね」