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かんかんむしはうたう
かんかん虫は唄う
吉川 英治
「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页
砂金窟
「あっ」
と彼の首をつよく押して、火のついた手袋を脱ぐように、振り離した。トム公は、仰向けに転びながら、巡査の指の肉片を、口から吐き出した。そこへ、飛びかかろうとした馭者は、彼の木靴の先ッぽで顎の骨を蹴飛ばされた。
砂金窟
トム公は、青い夜の中へ駈け込んだ。晩餐楽のゆるい奏曲が、ホテルの窓から海へ吹かれていた。
彼は、居留地の七番館の塀の蔭に、首を沈めて屈んでいた。木刀を抑えた駈足の巡査が、三、四名、眼の前を掠めたが、振り顧ったひとりの眼が、トム公を見つけた。
トム公は、煉瓦の上へ躍った。船渠の板足場をわたる時の軽快な足どりが、巡査を揶揄するようにヒョイヒョイと弾んで、塀のミネを駈け出した。そして、すばらしい迅さで、隣りの八番館の庭へとびこんだ。
何処かの領事館であった。巡査はたじろいだ。彼らが、門の前で何かガヤガヤ評議している間に、トム公は、コック部屋の外に干してあった白い前掛を胸にかけ、肉屋の籠を肩にかけて、ついでに、そこにあった自転車に乗って、フルスピードで警官たちの前を弧を描いて走り去った。
南京街の肉問屋、田村の前まで来ると、トム公、ぽんと降りて、