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かんかんむしはうたう
かんかん虫は唄う
吉川 英治
「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页
奔馳
きっと、亀田さんは、おいらが、貰って来てやるよ」
「どうぞね、トムさん」
「横浜じゅうの愚連隊に頼んでも、ほんとの泥棒を見つけ出して、おれが、亀田さんを、きッと返すよ」
その時、四、五人の靴音がして、門口から無遠慮な角燈の光が、家の中を照らした。
「――相沢町字和蘭陀横丁百三十七番地、通称イロハ長屋、千坂桐代」
木刀を佩げた巡査が、声を出して、手帖と標札を読みくらべながら、土間へはいって来た。
「おまえの家に、千坂富麿という子がいるはずだな」
奔馳
「どなたでございましょうか」
桐代は、幸いにも、盲目であるために、なんの驚動もうけないで、ふとんの上に坐ったけれど、亀田の細君はふるえていた。
「水上警察署から電話があって、ちょっと調べに来たんだが」
「警察のお方ですか……」
彼女も、初めてわなわなした。
「山手警察署まで、来てもらいたい。……いやおまえじゃない、おまえの実子じゃろう、富麿という少年の方」
「富麿なんていう子は、ここの家にゃ、いねえぜ」
トム公が、母親のうしろで、呶鳴った。
「これ、何を言うんです。おまえが、富麿じゃありませんか」と、桐代はもうおろおろとして、声が立たないほどである。