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かんかんむしはうたう
かんかん虫は唄う
吉川 英治
「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页
河浚い
「亀田を救うことかい」
「むろんさ」
「だれか名案はないかしら」
お光が、火照ッた耳を抑えながら言った。
「――ある! それは船渠のモンキー騒ぎの時にオペラバッグから金剛石の指環をちょろまかした小走ッこい、ほんとの盗ッ人を探すことさ」
「なるほど」
その時ぼんやりと室内を漫歩していた李鴻章の足の前で、けたたましい非常ベルが鳴った。――今までの光景は、すべて、一場の煙草の魔術であったように、一瞬に、そこの人影が消えて煙ばかりが吊洋燈のホヤに濛々とまきついている所へ、ひとりの靴音が、あわただしく、地下階段を駈け下りて来た。
河浚い
――追い立てられるように非常鈴は鳴ったけれど、李鴻章だけは、水煙管を咥えたまま、吃驚した表情もあらわさなかった。尤も、甚だしく大陸的な空漠をそなえている彼の顔に、ちッとやそッとの驚きが掠めても、他人には分からないのだろうけれど。
ごむまりの弾んで来るような南京靴の跫音が、地下階段を駈け降りてくるとすぐに、
「大人、おる?」
と、緞子のカーテンを割って、出っ歯の清国人がひとり、はいって来た。
同じ清国人でも、それは、非常にするどい眼をもち、苦力みたいに穢くて、弁髪をグルグルと頭に巻きつけていた。