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かんかんむしはうたう

かんかん虫は唄う

吉川 英治

「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页

青空文庫

巾着ッ切

いや、そこばかりでなく、よく注意してみると、あっちこっちの樹や石の蔭に、木の葉虫みたいにごろごろと人の寝ているのを発見した。その中には、日本人も交じっていた。

「なんだろう? あいつら」

「知らないのかえ、諸君は」

お光さんは笑って――

「あれはね、チイハという南京富籤を買う人間が、夢を見に来ているんだよ。――ナンキン墓へ来て昼寝をして、その夢をけんとくに富籤を買うとあたるという迷信があるのさ。……抜け目はないやネ、墓番のやつは、それでチイハ流行のこの頃、墓地の入場料をとってしこたま儲けているんだよ」

――話しながらポケットを探っていたお光さんの手には、いつのまにか、小さな短銃が光っていた。

黒眼鏡は、それを見て、顔もからだも、硬直したように、竦んでしまった。

巾着ッ切

ピストルが物を言うように、冷たいことばだった。

「君」

「…………」

黒眼鏡は、その黒い玻璃の奥で、お光さんの顔を、恐怖にみちた目で見つめたままだった。

「君」

「……なんだ」

「名まえを仰っしゃいな、名まえを」

「僕の姓名を貴様などに告げる必要はない。そんな物を人に向けて、何をするんだ」

「素直にしなければ、撃つのよ。