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かんかんむしはうたう

かんかん虫は唄う

吉川 英治

「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页

青空文庫

星の棕梠

「そうでしょう、そうでしょうとも。……誰だって」

と、今村はちょっと暗い庭の前後を見廻して、

「あたまがお痛いんじゃないんですか……」

「ええ……すこし」

「あれへ休みましょうか」

ベンチがあった。

ちょうどそこは温室の蔭で、人目を避けて星を見るにはいい。高い南洋植物があたりをつつみ、温室の花の香が、そこはかとなく、闇にただよってもいるし……。今村は、奈都子の手をつよく握った。

星の棕梠

奈都子は拒まなかった。

「ほんとに、ご同情ができます」

「今村さん」

彼女の眸は、何か、夢をみている。

「伯父はあんなお金だけに生きているんですしね。それに伯母といったって、親身じゃありませんし、それに……私の口からは言えないような行いをしているんですし。そんな家庭へ、お人形のように貰われて、そして、伯父の傀儡になって、何の生き甲斐があるでしょう」

「あなたの性格は、ああいう、濁った中に、物質的にだけ生きるには、あまりに清純なんですよ」

「清純? ……そんなことばを聞くと、私、怖ろしくなりますわ、いつ、今に、あの伯父が私を黄金の犠牲にするか……」

「奈都子さん」

彼女のうつつな感傷は、いつのまにか、今村の両手の中に、つよくゆすぶられていた。