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かんかんむしはうたう
かんかん虫は唄う
吉川 英治
「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页
騎手
彼は考え直した。――そしてみんなを揺り起した。
「火事かい?」
と、寝呆けているのがある。
「どうしたんだい、トム君」
と一同は眼をこすった。
「おれはね」――とトム公は言った。「ここに長くはいられねえのさ。だから逃げようと思ったけれど、みんなに黙って行ッちゃ悪いからお別れを告げて行くよ」
六人の不良児たちは困った顔をした。それは実に困り入ったような顔つきだった。
「だけれど、心配しないでくんな。おら、用がすめば帰ってくるよ。ここへ帰ってくるよ。みんなの好きな土産をうんと担いで――」
「何日?」
「二週間」
「二週間経ったら帰って来るのか」
「うん、きっと帰って来る」
彼らはトム公のことばに嘘のないことを信じた。硝子戸を外すことを手伝ったり、また時々、扉に耳をつけてみる注意を怠らなかった。
騎手
「じゃ、後はまた、これで鋲を締めておいてくんな」
と、トムは窓の外へ出て、捻釘廻しを彼らに預けた。
「あしたになったら、どこから逃げたんだろうと思って、驚くだろうな監視が」
「じゃ、あばよ」
「土産をたのむよ」
硝子を外した窓の一劃から、交りばんこに手をのばして握り合った。
トムは走って、闇の突き当りへ立った。