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かんかんむしはうたう

かんかん虫は唄う

吉川 英治

「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页

青空文庫

富麿

「はい、すぐ知らせておきましたから、もう程なく来るでしょう」

「さ、お客様たちは、どうぞあちらへ。……いや何でもありません、コソ泥です。かんかん虫のトムという小僧で、まいど、強請をしたり何かして、よくないやつなんで。……こらっ、今夜こそ、警察へわたしてやるぞ」

トム公は、黙って理平の顔を睨んだ。その高瀬の肩に、甘えかかって、何か、恟々とささやいているお槙へ、何か言ってやろうかと思ったが、ここではやめた。

「警察のお方がお見えになりました。署長さんまで」

「署長も。――いやそれ程のことじゃないのに」

「電話をかけたものが、ひどく、あわてたものですから」

「まあよいよい。伊勢佐木署の保科さんならあとでお詫をすればいい。とにかく、こちらへ」

警官の提燈と、佩剣の音は、そう言ってるまに、人々のうしろへ来ていた。

富麿

「あははは、そうですか、何か非常なことらしい電話なので、自転車をとばしてお見舞に来たわけです。――がまあ、そんな小事件であっておめでたいわけでした」

署長の保科勝衛は、高瀬理平と肩をならべて、もうほかの雑談などをしているのだった。だが部下の巡査は、その小さな一事件にも、職務の忠実を示し得るように、おそろしく厳粛がって、鉛筆のシンを舐める。