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かんかんむしはうたう

かんかん虫は唄う

吉川 英治

「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页

青空文庫

「え、書類と、粒の宝石が、……でも、ようございますわ、これさえ戻れば」

「宝石じゃ、ちょっと出ませんな。指輪ぐらいなものは、食ってしまいますからな、こういう動物は」

と、亀田の頭へ、手をのせた。

「動物だ?」

亀田は、刑事の手をふり落しながら、わなわなふるえる声で、

「動物たあ何ですか。その品が、吾輩のポケットから出たから、吾輩が泥棒だというように言うが、全然、知らんこッてす。まったく、誰かそばにいた奴が」

「いかんよ、後で聞こう」

「冤罪だ、動物とは、何ですか」

「よせ! 興奮するな」

そこへ、会社の給仕が、扉を開けて、

「奥様、お馬車が参りました」

刑事や守衛は、いっせいに壁へひらいて、

「とんだご迷惑をかけましたが、どうぞ、ご主人に、悪しからず」

「じゃ、後はどうぞ……」

トム公は、立ち塞がった。

「待ってくれ、オイ」

「…………」

奈都子は、まっ蒼になった。

「伯母さん、こわいわ」

「人に濡れ衣を着せて、すまして、帰るのか、てめえッちは」

「こら!」

「何がコラだ。もっと、調べろ」

「明白じゃないか」

「うそだい」

「君! このチビを追い出してくれんか」

守衛は、両方から、トム公の襟くびをつかんで、ズルズルと引っ張った。