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かんかんむしはうたう
かんかん虫は唄う
吉川 英治
「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页
ている、いわゆる少年懲治監なのである。
不良児たちの間では、ここへ三度来ると、八丈島の感化院へ送られて一生涯帰れないということが信じられ、恐れられていた。――トム公はこんどで三度目だった。そして高い塀の下に咲いているコスモスまでが故郷の花のごとくなつかしい。
「トムが来た」
「プリンスが来た」
懲治監の不良児たちはおそろしく敏感でまた早耳だった。その無電的な囁きはたちまち伝わって一丈もある黒塀の囲いの中を明るくした。各個の監禁室にいる不良児たちは、バンザイのかわりに、指笛をふいて、監視に叱りつけられた。
「何を騒ぐ、おまえたちは」
監視人には、まさか入監者のトム公を歓迎するそれが彼等の礼式だったとは知らなかった。ただいつものように、
「また晩飯を減らされたいのか! 麻つなぎをやらせるぞ!」
と、ただ脅かすべく、各室を事務的に呶鳴りあるいた。
トムは、十四番の監室へはいった。ここには十三歳以上十六歳未満の少年漂泊者や小悪漢ばかりが六人いた。トムがはいって七人になった。ひとり一畳ずつにすると、ちょうど畳が二枚余る真四角な箱のごとき部屋だった。
「やあ、おめえたちは、まだいたのか」