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かんかんむしはうたう
かんかん虫は唄う
吉川 英治
「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页
「まあ?」
と、お光さんは、その一枚一枚に、わざとらしい眉をひそめながら、息をのんで見て行った。それは、阿片やモルヒネと同じように種々な文化の中に紛れこんで輸入されるドイツの売笑婦や、フランス物の淫蕩な乱舞を、トリックした写真なのである。――それが迫真味の乏しい安俳優と売笑婦のトリックとは知りながらも、中には、何となく悩ましく胸の押されてくるようなものもあったけれど、そのうちに、二十名以上もいる金髪の裸美人が、胸や肱や曲げた足や、種々なポーズをもった四肢を組み合わせて、一個のグロテスクな人間の性慾的な面貌を構成している写真にぶつかって、急にいやな気もちがして来たように、
「つまんないわ、こんな物」
と、卓へ抛り出した。
老人は、それを、あわてて掻き集めて、金庫の中へ仕舞いこんだ。そして、意味のあるようなないような、妙な笑いかたを頬杖にのせて、
「あとで時計塔へおいで」
と、老人のする別種な気味のわるいはにかみをして言った。
「ええ、行くわ。私も話があるから」
老人は毛皮のスリッパを穿き直して、小売部の横から狭い階段を螺旋なりに登って行った。三階は二階よりも、四階は三階よりも狭隘になって、やっと一坪半ぐらいな、そして天井だけが妙に高い扁平な感じのする一室に突き当った。