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かんかんむしはうたう
かんかん虫は唄う
吉川 英治
「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页
おれたちにゃ何の病気だかわからねえが、何しろ、粥をすする元気もねえんでオタスケ病院の医者に頼みこんだところが、入院しなくっちゃいけねえというので、一昨日のことだったよ、ふとんにくるんで、みんなが送って行ったなあ」
「じゃ、銭がなくって、困ったろうな」
「なあに、病院の方は、オタスケ病院だから、一切金は要らねえのよ。俥賃だの何だのは、長屋の者から五銭ずつ集めて、それで立派に間に合ったから心配しねえがいい」
「小父さん」
トムは感激に燃えながら、二枚の百円紙幣を彼の前に示した。
「おら、こんなに金を持って来たんだぜ」
仙吉は飛び上がるほど驚いて、
「や、おい、トム公、これやおめえ、百円紙幣が二枚だぜ。どうしたんだ。こんな大金を」
「貰ったのよ……元町のお光さんに」
「お光さん……。あのむらさき組というハンケチ女のお光さんか」
「百円は亀田の家族へ、百円はおれのおふくろに」
「だって、あのお光さんは、南京洋妾だという話じゃあるけれど、こんな大金を、女愚連隊のくせに、持っているはずはねえじゃねえか」
「なあに、あの女の旦那は李鴻章じゃねえよ。吉田町の柳田という時計屋だよ。そこから持って来た金だからふしぎはねえのさ。