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にんきょうにとうりゅう

任侠二刀流

国枝 史郎

「名古屋新聞」1926(大正15)年5月24日~12月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 224,569 字 · 451 页

青空文庫

ふと見るとその前にこの家の老人、端座して祝詞を上げている。と、老人は振り返った。

「お武家、礼拝なさるがよい!」命ずるような威厳のある声! まるで人間が異って見える。

品位に打たれた宗三郎、思わずピタリと端座した。この老人何者であろう? 素性は不明、名は彦兵衛。

神代原から半里の北に、萩原の部落が出来ていた。

すこし前まではこの萩原、戸数二十戸、人数八十人、問題にならない小部落であったが、薬草採りが入り込んでからは、にわかに家が増し人数が殖え、戸数百戸、人数四百人、堂々たる山間の都会となった。

部落の中央札の辻に、一軒の酒場が立っていた。その経営者の名を取って、浜路の酒場と呼ばれていた。由来御岳の山中には、いろいろの人間が入り込んでいた。幕府直轄の御料林として、五百人の杣夫をはじめとし、それを監督する百五十人の武士、その連中に春を鬻ぐ、三四十人の私娼の群、どこにいるとも解らないが、兇暴の強盗や殺人をする、数百人の山窩の団隊、それから金沢や大坂や、江戸や京都や名古屋から、入り込んで来た薬草採り――で、札の辻の浜路の酒場は、そういう人達の慰安所として、朝晩素晴らしく繁昌した。