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にんきょうにとうりゅう

任侠二刀流

国枝 史郎

「名古屋新聞」1926(大正15)年5月24日~12月26日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 224,569 字 · 451 页

青空文庫

と薪十郎考え込んだ。「いよいよ世間は冷めてえなあ。俄盲目と馬鹿にして、あの隣家のふんばり婆、さあさあ日が暮れたからお出かけよ……などと瞞して嬲ったらしい。なるほどなあどこの店でも、こいつア剣呑を食れる筈だ。朝っぱらからガチャガチャと、三味線を鳴らされちゃアやりきれまい」

「盲人盲人」と志水幹之介、優しい声で呼びかけた。「わずかではあるが鳥目を進ぜる。ひとつ玉菊を唄ってくれ」

「へえ」というと鎌首を上げた。「玉菊がご所望でござんすかえ?」

「俺にとっては思い出の唄だ。聞いて涙を流したい」

「へえ」と云ったが眼をむいた。「私にとっても思い出の唄で。骨髄に透った怨みのね!」

「ああそうか、わしは違う。恋しい思い出の唄なのさ」二人しばらく黙っていた。と幹之介不意に云った。「ああここは浅間の社地! いよいよ昔を思い出すなあ」

「何!」と突っ立ったのは薪十郎である。

心の傷と肉体の傷

「何!」と突っ立った阪東薪十郎。「ダ、旦那ア!」と声をしぼった。「何んとか云ったね? 浅間の社地?」

「どうした?」と驚いた志水幹之介。「いかにも社地だ! 浅間のな!」

「たしかだね!」とダメを押した。