Japanische Klassiker mit Furigana
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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
Lesen Sie 血煙天明陣 (ちけむりてんめいじん) von 国枝 史郎 (くにえだしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 191.184 Zeichen · 379 Bildschirme
十五
「…………」
「四面楚歌裏におられます」
「…………」
「次に」
とまた貝十郎は、意味深き眼で冬次郎を見詰めた。
「殿が当地へ参られました趣き、本日知りましてござりますゆえ、貝十郎ただちに参上仕り……」
「うむ、わしは、昨日着いたばかりだ」
「で、参上いたしました」
十五
(どうも解らぬ)
と冬次郎は思った。
――何かを疑がっているらしい? 何かを不安に思っているらしい? ……だがそれは何んだろう? ――
「貝十郎」
と冬次郎はいった。
「率直にいえ! いったい何んだ?」
「は」
と貝十郎はいったものの、率直にはいえないような様子であった。
ここで二人は黙ってしまった。
熊太郎も勘助も、何んとなく異様な貝十郎の様子に、横から言葉もはさみかね、これも黙って控えていた。
宵ではあったが奥まった部屋は、表の人出入りにかかわりなく、寂しいまでに静かであった。
前庭の池に落ちる築山の水が、筧から落ちる水のような、閑寂の音を立てているばかりであった。
燭台の灯も筆のような火花を、素直に立てて燃えていた。
狩野筆らしい漁樵問答の図を、二双に描いた銀屏風が、その灯に映じて華やかには見えたが、それさえ派手には感じられなかった。