Japanische Klassiker mit Furigana
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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
Lesen Sie 血煙天明陣 (ちけむりてんめいじん) von 国枝 史郎 (くにえだしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 191.184 Zeichen · 379 Bildschirme
八
田沼に、ええ、田沼の爺に! ……妾は生娘ではなかったのです。……妾の生娘は田沼めが……だのに上様はご存知なく、妾を可愛がってくださいました」
お浦は両袖で顔を蔽うた。
肩が小刻みに顫えているのは、思い出して泣いているからであろう。
袖を取ると彼女は笑い出した。それを見ただけでもこの娘の、心の清らかさが想像される、澄んだ、大きな、弦月形の眼から、涙の紐を頬に引きながら、嬉しそうに笑い出した。
「上様は可愛がってくださいました……紗のような天蓋が蔽うていて、忍びやかに匂う香料の、薄い煙りの漂う中で……でも上様のお腕にも、そうして妾の腕にも、刺された銀の針の跟が、赤くついておりましたわねえ」
「あれはいったいどうしたのだろうのう?」
不意に上様の人形がいった。
八
「あれ!」
とお浦は声をあげた。
狂っているとはいうものの、人形に声を出されては驚かざるを得なかったからであろう。
審かしそうに眼を見張って、お浦は上様の人形を見詰めた。
たいていはお浦が描いたのであろう、上様の人形は鼻の下に、立派な八字髭を持っていたが、その下にあるへの字の口――無造作に描かれたへの字の口は、動こうともせず結ばれていた。