Japanische Klassiker mit Furigana
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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
Lesen Sie 血煙天明陣 (ちけむりてんめいじん) von 国枝 史郎 (くにえだしろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 191.184 Zeichen · 379 Bildschirme
未練のなくなった女であった。(それもよかろう)とその時思い、爾来念頭にも浮かべなかったが、こんな場合にこんなところで、そのお吉が好んで弾いた、三味線の音色が聞こえて来てみれば、ギョッとせざるを得なかった。
思わず九十郎は部屋を出て、縁から庭へ飛び下りた。
(織江は柱へくくりつけてある。逃げようとしても逃げられない。賞翫はゆるゆるすることにしよう)
それよりともかくも昔の妾――自分の善悪を知悉している、お吉のことが苦になった。
(噂によりゃアこの車塚に、三軒立っている廃屋は、化物屋敷だということだ、そんなところで粋な江戸の、通人の弾く河東節の、水調子の音色が聞こえるとは※(感嘆符疑問符、1-8-78) それも聞き覚えのあるお吉の手で……」
確かめないことには不安であった。
九十郎は耳を澄ました。
自分が今までいた家と並んで、二軒の廃屋が縁の上まで、丈なす枯れ草に蔽われて、そうして背後に断崖を負って、閉ざした雨戸に昼の陽を浴びて、崩れ傾き立っていた。
三味線の音色は二軒の家の、一軒から聞こえて来るようであった。
(よーし!)と九十郎は足音を忍ばせ、枯れ草を分けてそっちへ進んだ。