Classiques japonais avec furigana
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しんらん
親鸞
吉川 英治
Lisez 親鸞 (しんらん) de 吉川 英治 (よしかわえいじ) en japonais avec furigana. JLPT N2. Touchez un mot pour le sens.
N2 · avancé · kanji et kana modernes · 566 138 caractères · 1127 écrans
四
――彼女は前にはもう何も見えなくなっていた。真っ暗な足の先が、たとえ淵でも、崖でも、池でも、駈けずにはいられなかった。
と――彼女の眸のまえは、谷間の壁のような高い影に塞がれてしまった。お吉は、何物かにつまずいた。手をついた触感で、それが階段であると分ると、再び無我夢中にそれを駈けのぼった。
よろめく身を支える弾みに、なにか冷たい金属の肌が手にふれた。それは階段の上の擬宝珠柱であった。
「オオ、ここは柳島の御造営の伽藍じゃな。……オオ新しい御堂の縁」ほとんど無意識に近いうちに彼女はふと仏のふところを思った。慈悲の御廂の下ならば、同じ死ぬにも――狂乱した良人の刃物で殺されるにしても――幾分かなぐさめられる心地がする。
その時、平次郎がもう御堂の下まで来ていた。ドギドギと光る手斧の刃が、闇の中をうろついている。獣に似た恐い眼が、御堂の床下をのぞいていた。それから廻廊の横のほうへ廻りかけたが、気配を感じたものとみえ、やがてのしりと、お吉の上がった階段を彼も上がってきた。
つよい木の香が鼻を打つ。柳島のこの御堂も、昨日ですっかり落成していたのである。丸太足場も、筵掛もすっかり取払われて、きのうの夕方は、かんな屑一つないようにきれいに掃き浄められていた。