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かんかんむしはうたう
かんかん虫は唄う
吉川 英治
「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页
だからまだカトリックの宣教師たちがいくらクリスマスに贈り物をくれたり、日曜学校を建ててオルガンを奏でていても、なかなか親たちも近寄らないし、子供達も人みしりをして馴つかなかった。それが相沢のような貧民街ほどそうであった。
今朝も丘の日曜学校ではオルガンの音が洩れている。しかし日曜の祈祷ではなく、きょうは土曜日のはずである。人の来ない教会では、金を送って貰う本国のカトリック本部への言い訳みたいにオルガンばかり鳴らしているのだった。
――ところがその神聖な建物をかこむ根岸の松ばやしのある丘には競馬へ押し出す勢ぞろいをする約束だったので、約束の午前十時頃になると、広東服のお光さんだの、愚連隊の三浦だの、樫井、西村、今村だのという、みんなユダみたいな人間ばかりが集まって来て、早速、マッチの棒や、ナンキン豆の皮殻を散らかしはじめた。
しかしきょうの愚連隊たちは、みんな瀟洒な背広服を着こんで、また新しい鳥打帽とネクタイと鳴皮の靴まではきこんで、どこの若紳士のお揃いかと思われるような風采だった。――むろんそれはお光さんの手から分配された例の指環のお金のおかげで新調されたものには、違いない。