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かんかんむしはうたう
かんかん虫は唄う
吉川 英治
「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页
真摯な感化事業家をもって生涯をゆだねているような老外人の夫妻は卓頭に立って黙祷をする。不良児たちもその間だけは、しおらしく口のうちで祈祷のことばを呟いている振りをするのだった。
老外人の夫妻は、彼らと同じように、割麦の大部分な日本米を食べ、鯨油をたらしたまずい野菜汁をすすり、沢庵漬をも噛んだ。しかし不良児たちは、監長のそういう行いに何らの感激をもうけた例しはない。
彼らはこの食事室の会合によって胃ぶくろを満たしながら、その箸の先と、眼と眼とのうごきかたで、意中にあるすべてのことを仲間の者と語りつくした。――たとえば、きょうは吾らのトム公が入監って来て大いに愉快だということも、また、こん夜、誰か夜半に事務室へしのびこんで巻煙草を各室へ一本ずつ配分する英雄はないかという信号も、また、K監視はすこしこのごろ生意気だから何かで失策らせてやろうじゃないかという計画も――敢えてことばを要せずに通じるのである。
トム公もその声なきことばで一同へ入監のあいさつをした。トムを知る者も知らないものも先輩の彼氏へ対して汁椀を上げて敬意を表した。それからぞろぞろと監房へ分れて帰ると、二時間の作業である。