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かんかんむしはうたう
かんかん虫は唄う
吉川 英治
「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页
一時間の修身である。なんと胃ぶくろに反比例して詰めこませることか。
「消燈――」
監視のこの声こそは彼らの黎明だ。絶えず彼らの聴神経につながってる、いやな監視人のスリッパの音は朝まで遠く消え去る。そして彼らは自己になる、腕も、足も、眼も、ことばも、自己のものとして自由なる使用をゆるされる。長い一つの枕とうすべったい蒲団の中に、伸び伸びと寝ころがった彼らの枕元に、やがて天国が降りてくる。
突いたり、抓ったり、女のまねをして抱きついたり、さんざんふざけているうちに誰からともなく鼾をかいてぐっすりと寝こんでしまう。――ただトム公だけは、ほかの六人の寝息を羨ましい気もちで聞いていた。
彼はそっと起き出した。ゆうべから予定していた行動にかかるのであって、極めて落着いたものであった。どこへかくしていたのか、小さな捻釘廻しを硝子戸の鋲へあてた。くるくると廻すと鋲はすぐに足元へこぼれる。二本、三本……そうして一枚の硝子戸を外すことは三十秒の作業であった。
が、トムは六人の寝顔を見て考えた。自分が無断で逃げれば、共犯の疑いをかけられて、あしたから減飯の懲戒をくうことは勿論であるし、彼ら自身も、また、取り残された寂寥から自分をうらむに違いない。