轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
かんかんむしはうたう
かんかん虫は唄う
吉川 英治
「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页
弦を離れて行った七色の点が星のように馬場を駈け出した。――巨きな賭博の回転盤が旋り出したのだ。
観衆はみんな常に装うている第二自己を抛り出してしまって、まっ裸の自己になった。拳を振る。怒号する、飛び上がる。
そして口々に、自分の買馬を呼んだ。或いは惚れている騎手の名を金きり声でさけんだ。
「島崎! 島崎!」
そういう女の声がトムの耳をついた。トムはそれによって初めて今スタートを切ったハンデキャップ競走に島崎も交じっているのを発見した。島崎のユニホームは白地に紫の筋だった。
「紫! 紫!」
トムもつり込まれて叫び出した。
二周目の半ばごろで島崎の馬は危うかった。わずかな距離の差であるが、紅白それから紫が見えた。
「紫!」
「島崎ッ」と前の女も、見栄を忘れて叫んでいた。
「勝て」
「島崎」
「紫――ッ」
とたんに、トムは観覧席の段を踏み外して、前の人々の脚の林立へと転げこんで行った。しかし誰一人、それを顧みている者はなかった。
「いやよ、いやよ、この人は」
ただ彼と共に、島崎の名を叫んでいた女だけが絹靴下につつまれた細い脚をふりうごかして眉をひそめた。トムは気がついて、恥かしそうに、女の脚から手を離した。