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かんかんむしはうたう

かんかん虫は唄う

吉川 英治

「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页

青空文庫

おいらはこんなに丈夫なのに、どうして、おまえは弱いのだろう」

「女だからよ」

「女だって、そんなに細い女って、あるもんか。こんどおっ母あが病院を出たら訊いてみよう。菊ちゃんとおれとは、きっと父親がちがうのかも知れねえぜ」

「そんなことないわ、そんなことないわ」

賢い豆菊は、トム公よりは、そのほんとなることを知っていた。母がどんなにして自分たちを産んだか、また自分たちが、私生児という名であることも、また自分たちが生れるまえの、母が若さを濫費して来た行いなども、ちらちらと耳にはいる人の話が、いつか豆菊の澄んだ心のなかに纒って分っていた。その淋しいものが、豆菊の少女らしさをだんだん内気な聡明にして来た。

「菊ちゃんは、時々、この別荘へよばれて来るのかい」

「ええ時々、千歳の女将さんや、姐さん達といっしょに」

「もうじき帰るの?」

「まだでしょう、お客様たちが寝てしまわなければ」

「じゃ、後でまた、ここへ来ねえか。ふたりで唄おうよ」

「唄なんか唄いたくないわ。私、いろんな話がしたい」

「あ、話をしてもいいさ」

「兄さんは一体、大きくなってから何をするの? おっ母さんは、これから先、どうして暮すの? そして私は……。