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かんかんむしはうたう
かんかん虫は唄う
吉川 英治
「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页
「こらっ、貴様あ、かんかん虫のトム公だな」
「さきおととい、調べてもらったばかりだ」
「でも一応は、住所年齢を聞くんじゃ。年は」
「十四さ」
「住所は」
「忘れちまった」
「貴様、署では言ッたじゃないか。――相沢町字和蘭陀横丁、俗称イロハ長屋、千坂桐代長男――そうだな」
「おっ母あの名なんか、そんな、汚ねえ手帳に書いてくれんなよ。おっ母あは何も、警察の手帳に書かれるようなことをしたことはねえ」
「署長、こういう小僧です。実に手におえんです」
「こんなのが大きくなったら、さしずめ、吾々の飯の種じゃろう。あははは」
「しかし、法律というものも不便ですな」と、理平が、署長の吸いかけている巻煙草へ燐寸を摺ってやりながら横口を入れた――
「こんなチビでも、いっぱし、大人以上の悪事を働いて社会を害するのに、十四歳では、それを懲役にすることができないのですか」
「まあ、こんなひどい不良は、八丈島の感化院へやるわけですがな。その感化院へやっても、どうも大した効果はないようです」
「そうでしょう、こんなのは、つまりもう先天的に、血のなかに悪を持っているのでしょうからな」
「おい、連れてゆけ」