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かんかんむしはうたう
かんかん虫は唄う
吉川 英治
「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页
「金はいくらでもやるから、その原板を持って来てくれんか」
「売るならば、私は、輸出絵ハガキ屋のトリック師へ売りつけてやってよ。こういう絵は、外国船の下級船員たちが、非常によろこぶもんですって」
「だから、わしが買うよ」
「いいえ、売らないと言うんですよ。――ようござんすか君! 私は、これを売りつけに来たんではありません」
「じゃ、何だって」
「夫人も、一言あっていいでしょう、君はこれを認めますか。騎手の島崎との醜行を」
「え! 今言おうと思っていたんです」お槙は、乾いた唇をわなわなさせて――
「それはみんなトリックです、私の、何かの写真を盗んで、悪戯をしたんです、冤罪です」
と、終りの一句を、理平に向けて、訴えるように叫んだ。
「む、む、そうじゃろう。誰かの、悪戯にちがいない。おまえにとっては、まったくの冤罪だろう。もし、そんなものを、承知しながら流布するならば、警察の力を借りて」
「君たち!」お光さんは、平等に、ふたりを睨んで、その秩序のない泣き言に句点を打たした。
「そんな強がりや、見ッともない狎れ合いはおよしなさい。その代りに、夫人の冤罪という点だけは認めて上げましょう。