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かんかんむしはうたう
かんかん虫は唄う
吉川 英治
「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页
ちょうどよく、その時、電話のベルが鳴ってくれた。
「あ……千歳の女将からだろう、大隈伯がお目ざめになったら、知らせてくれるように頼んでおいたから」
理平は、あわてて受話器を耳にあてた。
「……おウ、わしは高瀬、左様、主人の理平じゃがね……え……えっ……何? ……何だア? ……何じゃッて? ……」
耳を疑るように、何度も訊き返していたかと思うと、彼は、電話機が相手の顔に見えて来たように、呶鳴ッた。
「――わしは、お前みたいな者は知らん。それでも来ると言っても、面会はせんぞ。――何、奥さんに? 奥は旅行中じゃ。――愚連隊じゃろう貴様は……来るなら来い! 刑事を呼ンでおくから!」
「おじ様、どうなすッたの」
奈都子は、電話口を離れて椅子へ戻った彼の顔いろに、彼以上の動悸をうけ取って訊ねた。
「なに、愚連隊にちがいない」
「何だって言うんです」
お槙も、不気味そうに白けて言った。
「――今朝の新聞を見た奴じゃろう、そのことについて、わしかおまえに会いに来ると言うから、呶鳴りつけてくれたんじゃ、警察でも、あの愚連隊のやつらを、何とかしてくれんと困る」
そう言いかけて、彼はまた、ぎょっとしたように振り向いた。