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かんかんむしはうたう
かんかん虫は唄う
吉川 英治
「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页
事実、彼女が、稀ここへ来るのは、阿片を求めに来るのと、男女の不良隊と密談の必要ある場合を出ないようである。
「あら、帰って来たよ」
お光さんは立った。
その晩の彼女は、とろけるようなヒスイの耳環を下げていた。そして、彼女は広東仕立のスマートな服がよく似合った。色の白い、やや丸こい顔と、天啓陶磁のような薄手な姿態にも。
多勢の、跫音が聞こえると、李鴻章は、ものうい顔をして、水煙管を、卓の上へ捨てて、腰へ手をあてがいながら、室内をあるきだした。
お光は、もう、はしゃぎ立って、多勢の男たちの中から、トム公を拾い出して、しゃべっていた。
「なぜゆうべ、私が行くまで、薬師様に行っていなかったの」
「待っていたよ」
トム公は、口を尖らした。すこし、不平のように。
その顔を、お光の白い指が、痛いほど強く突いて、からかい気味に、
「うそ、一時にはもう、いなかったじゃないか」
「ああ、十二時には帰ったから」
「それごらんな、だからあたしゃ、心配しちゃッて、あれから、どれほどヤキモキしたか知れないよ。――だがね、おまえに頼まれたことは、探っているから、安心おし」
「亀田さんは」
「検事局からすぐに根岸の未決監へ送られているのさ。