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かんかんむしはうたう
かんかん虫は唄う
吉川 英治
「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页
ふたりの間には、同時に、おそろしく早口な、広東ごろつきのアクセントで、喧嘩じゃないかと思うような会話がはじまった。
「張じゃねえか、なんだッて、非常ベルなんぞを鳴らすんだ、ばか野郎め」
「今ネ、親方、あっしが、急用があって、ここへ来ると、水上警察のお巡りが、いやにうろついているんでさ」
「どこに?」
「この南京街界隈に」
「それや、何も、おれたちの阿片窟をかぎあるいているわけじゃねえだろう。お巡りを見るたんびに、驚いていたひには、居留地に住んじゃいられねえぜ」
「そんな手緩いんじゃありませんや。二十一番館の四ツ辻と、前田橋通りじゃ、非常線を張っているんで。――おまけに、あっしの後からも、私服らしいのが尾けて来たようですから、そいつを撒いて、一巡りして戻って来ると、またここの入口をのぞいている奴がある。で、あっしも、こいつアてっきり、今朝の一件から、巣が割れたなと思ったんで、隣家のベルを押したんです」
「そりゃ、トム公をさがしているお巡りだろう。――だが今朝の一件というなあ、なんだ」
「まだ聞きませんか、明け方の騒ぎを。谷戸橋の袂は、たいへんな人だかりですぜ」
「オヤ、もう夜が明けているのか」