轻松读懂日语经典作品
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かんかんむしはうたう
かんかん虫は唄う
吉川 英治
「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页
彼は、あわてて下甲板へ降りた。船渠の壁も、船の中も、たちまち人間で埋まった。
「先刻のだ、先刻のだよ」
「なんだ、あの女は」
「らしゃめん」
「芸者」
「いや、奥様に、お嬢様」
「わかるもんか」
「年増がいいな」
「おれは、若い方がいい」
「いや丸っこ過ぎる」
職工たちの無遠慮な眼や指が、わいわいと騒いでいた。入渠している外国汽船の船員か客かを訪問して来たこの異彩は、とっくに、彼らの好奇を煽っていた。
年上の婦人は、洋装だった。着こなしが肌につきすぎて、粋というのもおかしいが、垢抜けがしている。もうひとりは、こってりと、日本髪で、あどけない。
だが、ふたりとも衆目もなく、羞恥もなく、黄色い声でさけんでいた。
「たれか、早くあれを!」
「たれか、取って来て」
「私のオペラバッグです、あの中には、大事な物ばかり、はいってるんですから」
彼女らの指につれて、人々は、眩しそうな眼をみな帆柱の上へやった。暗褐色の小さい怪物が、銀の鎖を咥えて、そこに、丸まッていた。
「猿だ」
「インド猿!」
「うまくやったぞ、オペラバッグを咥えて逃げやがった」
「お聟さんにするなら、返してやるとよ」
ワーッと陸で囃した。