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かんかんむしはうたう
かんかん虫は唄う
吉川 英治
「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页
むろん、生家の方は、親族会議の結果、絶縁になっとる」
「困ったお姫さまですことね」
「堕落すると、女でも、底なく落ちてゆくものとみえる。そのあげく、こんどは、わしの名を騙り歩いて、大胆な詐欺をして廻った。大隈の親戚、千坂の娘というので、慾につられた被害者が、ぞくぞくと、警察へ届けてくる。初婚の時から、約十年間、わしも迷惑をしたが、千坂家の親類はみなどれほどの不名誉に泣いたかわからぬ」
おむらも、そこまで聞くと、古い新聞記事で読んだ、女天一坊だの、華族の女詐欺師だのという、あくどいみだしを記憶の中に拾うことができた。
だが、それもずいぶん古い巷の世間話だのに、今ごろになって、伯は、何を自分に頼むというのだろうか。
「その……何と仰っしゃいましたッけ、桐代さんでしたか、千坂様のお嬢様は」
「ム、桐代」
「その後、どうなさいましたか」
「とうとう、しまいには、横浜の時計屋を詐欺して逃げたり、旅役者といっしょに、悪いことをして歩いたりしたあげく、水戸警察署に捕まって、検事局に廻され、重禁固二年かの処刑をうけたが、その時、妊娠であったので、執行猶予をされたことだけは聞いたが……以来杳として消息も聞かずに来たんじゃ。