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かんかんむしはうたう

かんかん虫は唄う

吉川 英治

「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页

青空文庫

ところが……」

ここからが、本題であった。おむらは、伯のたのみをうける心じたくをしてきた。

「近ごろ、また、その話が再燃してきた。というのは、千坂の当主が、老病で今東京のある病院に入院中だ。親には煩悩がある、それほど、堕落した娘でも、どうかして死ぬまえに一度会いたいと言う。――で、いろいろ消息をたずねると、桐代は、刑の執行中に、ひとりの女子を生み、その前にも、男の子があって、ふたりの子をかかえながら、しばらく神戸の方で、ある通弁と夫婦になっていたが、その良人とも死にわかれて、今では、横浜に来ているという話なのだが……」

「ずいぶん古い話なので、分りません、今おいくつ位になるんですか」

「左様……」と、伯は、指をくりながら、

「四十ぢかい」

「じゃ、子供も、相当な年にはなっていますね」

「いくら放縦な女でも、さだめし、悔いているだろうと思う。何といっても血筋だから、本人の居所が知れるものならば、その子供たちも、どうかしてやりたいと言っておるんじゃ」

「私においいつけのご用は、その桐代さんの家族を、たずね当ててくれと仰っしゃるんでございますね」

「どうじゃろう、分るまいか」