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かんかんむしはうたう

かんかん虫は唄う

吉川 英治

「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页

青空文庫

「たくさんご祝儀をいただいて来たんだからネ、何でもおねだり、何でも」

小猫のような眼は、急に羞恥んでしまった。

「欲しくないの」

「ほしいわ」

ひとりが手をあげた。

「なあに? 軍艦? おもちゃの」

「いやあよ、そんなもの」

「犬屋にいるお猿さん」

「いや! いや!」

「洋服」

「え。え」

「青い、職工服」

「ひどいわ」

「痛い、この子は」

「だって、あんまりだわ、私たち、かんかん虫じゃなくッてよ」

「そう、じゃ何?」

「――わたし、簪」

「――わたし、刺繍の半襟がほしいわ」

「わたし、柳屋で見た、蟇口」

「お金もないくせに」

「いいのよう」

「ホホホ。みんなお安値いものばかりだね。――豆さん、おまえは」

七人組のなかで、一番小さい、一番おとなしい、一番かしこそうな豆菊は、さっきから馬車の隅に押しつけられて、淋しげに、笑っていた。

「豆さんは」

「わたし……」

と、やっぱり笑っている。

女将は、この子の、ふだんからそうであるが――何かしら淋しげなのを、浮かせるように、

「もっと、すばらしい物をお考えよ。なあに?」

と、顔をのぞいた。

豆菊は、笹色に光る口臙脂から、その紅さを、顔じゅうにちらして、