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かんかんむしはうたう

かんかん虫は唄う

吉川 英治

「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页

青空文庫

「雛妓が、そんなませたことを言っちゃあだめ、連れて行っておもらいなさい」

「今、家へ行って、姐さんに聞いてっからと言って、帰って来たの」

「豆菊ちゃん」

「え」

と、千歳の女将の方へふり向いて、長い袂を持った。

「あのね、おまえさん、ゆうべみたいに引っこみ思案じゃいけなくってよ。きょうは、そのお客さんに、何でもねだらなくっちゃあ……」

「だってエ……」

「どんなお客さん」

「それはやさしい人」

「横浜の」

「東京ですって、まだ若いのよ、そして、黒い眼鏡をかけて、どこかの、若旦那みたいな人」

「おや、この妓、なかなかだよ」

「そんななら頼もしいけれど。……さ、お客さんが待っているんだろう、はやく行ってらっしゃい」

「どれ、私も」

「まあいいじゃありませんか」

「おや、もう一時。ちょっと、朝のうちに、お薬師様へお詣りして、帰りに、西の橋の易者がよくあたるというので、観て貰って来たりしたものですからね」

「ご病人でも、あるんですか」

「いいえ、人様の頼まれごとだけれど、まるで見当がつかないのでね、探偵じゃあないし、またそう他人に話しては困ると言うし、困ったことを背負わされてしまったのさ。