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かんかんむしはうたう
かんかん虫は唄う
吉川 英治
「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页
刈られてある雑草のひろい空地の向うは、凝固土の低い杭から杭へ、鉄の鎖が垂れていて、その中には、異国で死んだ中華人の墓石が乱立している。
ここのナンキン墓の墓番をしながら、花や香を売っている広東人の若夫婦は、たいした金が儲かるというので、その頃、在邦の清国人のあいだでは羨望の的だった。
墓番の若い細君は、同邦人の葬式があるたびに、必ず、楊貴妃のように盛装して施主に雇われてゆく。それは、清国式の大げさな葬式にはぶたの丸煮と共に、ぜひともなくてはならない「泣き女」の職業に。
銅鑼や、木鼓板や、鉦を、破れかえるほどたたきながら、よく、彼等の祭の如き輿をかこんで行く葬式の行列が、横浜の町を練ってゆくのを見る。
職業婦人の「泣き女」は、その葬式の先頭に立って、人力車の上でオイオイと声をあげて泣くのが商売だった。ナンキン墓の細君は、その泣くことの天才であって、ご亭主さんよりは稼ぐということである。
その「泣き女」の細君と懇意なのか、お光さんは、家の中で立ち話をしていたが、トム公の声を聞くと、すぐに出て来た。
「あ、来たのね、諸君」
捕まって来た黒眼鏡の男は、彼女のすがたを見ると、すぐに何か話しかけそうにしたが、樫井と西村に腕を抑えられて、