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あすはてんきになれ

明日は天気になれ

坂口 安吾

「西日本新聞 第二四九四六号~第二五〇四六号」1953(昭和28)年1月2日~4月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 114,679 字 · 228 页

青空文庫

彼が案外人の盤外作戦にひっかからないのは、腕に差があるからであろう。そして、腕に差のない大山や塚田は盤外作戦をやらないタチの棋士だから、破綻を見せずにすんでいるのだろうと私は思っている。

とにかく升田はいったん形勢不利と見ると、一人で勝手に破綻して、七転八倒、ムチャクチャにのたうちまわるのだから、相手に負けずに、自分に負けるような脆さがある。彼のように鋭敏な才子は、自分の鋭敏さに傷を負うから、鈍根の人とツリアイがとれてしまうのである。

この晩の七転八倒は言語道断で、

「一歩足りない。一歩足りない。番丁皿屋敷。バンサラお菊の場……」

などと、いってることは冗談のようだが、眼は血走り、頬骨はにわかに角のようにとがり、まったく血の気を失って、全身石のように硬直のオモムキである。

「さては、そうか。負かされたか……」

負かされる三四時間前から、負かされた、負かされたとガマが脂汗をしたたらせるような悲痛きわまる呻きをあげて身もだえているのだ。

相手を一気にバタバタバタの遠大な着想に熱中しすぎて、自分の方がバタバタバタになってしまったのである。カンタンに勝負はきまってしまった。