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あすはてんきになれ

明日は天気になれ

坂口 安吾

「西日本新聞 第二四九四六号~第二五〇四六号」1953(昭和28)年1月2日~4月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 114,679 字 · 228 页

青空文庫

お灸好き

お灸の方は日本ではもっぱら落語の材料で愛嬌がある。しかし、自発的にやることだから愛嬌があるのだけれども、弘法灸なぞというデカイ奴を無理にやられることになれば、これも拷問であろう。日本では子供をおどかすのに、お灸をすえるぞ、という脅迫の言辞を慣用するところを見ても、お灸は自発的にやらない限り愛嬌のあるものではない。

落語で大きなお灸をすえて人を笑わせるのは八さん熊さんであるが、実際に弘法灸という大きなお灸の信者にはむしろ女が多いということである。

そう云われて思いだすのは、私が三十年も昔に当時まったく武蔵野のままだった世田ヶ谷で小学校の代用教員をやってたとき、その学校の向いにアワシマ様という昔からお灸で有名なお寺があった。月に二度か一度、お灸の日がある。すると続々田ンボ道を歩いてアワシマ様の門内に吸いこまれて行くのは東京の花柳地の姐さんとおぼしきキレイドコロならびにその一族とおぼしき人種が主であったのである。

終戦後私の家にいた女中にも、弘法灸の信者がいて、夏になると月に一度お灸をすえに埼玉在へでかけていった。まだ二十ぐらいの娘である。

お灸という自発的な拷問には、治病という効能のほかに、一種のエクスタシーがあるのかも知れない。