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あすはてんきになれ

明日は天気になれ

坂口 安吾

「西日本新聞 第二四九四六号~第二五〇四六号」1953(昭和28)年1月2日~4月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 114,679 字 · 228 页

青空文庫

名のない女

三百何年間、道をつくらずに梯子かなにかで用を弁じているのだとすれば、痛快きわまるほど悠々たる世界ではある。

私はおかしくてたまらなかったから、梯子の所在や、梯子の昇降口と見られる地点を捜してみたが、一面の畑があるばかりで梯子などは存在せず、また特に踏み荒された所も、昇降口と目される空地も見出すことができなかった。

今ここを耕している人たちは、ここで戦死した人たちの子孫ではないのである。

このへんの農民はみんな原城にこもって老若男女ともに全滅してしまったから、一揆に参加しなかった二、三の村をのぞいて南高来郡は全く無人の村となり、累々たる白骨だけが天日にさらされていたのである。

その状態で十年すぎ、十年目に他国から農民を移住させて、新しく村をひらき、耕作をはじめたのだ。

はじめの十年ぐらいは、この空壕や城址を怖れたかも知れないが、そんな気持が永続するはずのないことは広島、長崎の例でも知り得よう。だから三百余年すぎて昔の原形のまま畑と化しているのも他の理由によるものであろうけれども、昇降の道すらもいまだにないとは突ッ拍子もない話であろう。

名のない女

歴史小説を書いていると、読者にはちょっと想像もできないほどバカバカしいところで苦労しなければならないものなのである。