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あすはてんきになれ

明日は天気になれ

坂口 安吾

「西日本新聞 第二四九四六号~第二五〇四六号」1953(昭和28)年1月2日~4月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 114,679 字 · 228 页

青空文庫

雑草と瘠せた人間

というセリフをきくと、ははア、ヒゼンの虫がタンカをきって威張ってやがる、と思うことにしているのである。

雑草と瘠せた人間

おひな様だからよもぎの餅が食べたいなどと女どもが餅屋へ出かけた。なるほどにわかに春めいた陽気であるが、よもぎはともかくとして戦争中雑草を食わねばならなかった日々のことを考えると、あのころは人はやせ、しかし天はうららかであったことを思う。

人間の記憶というものは妙なもので貧乏時代の苦しいときを思い出しても、それにつれて浮び出てくるお天気はいつもいいお天気のことしか記憶にない。

「人間の過去はいつでも晴天らしいや」と私は近ごろふと思った。雨の日、嵐の日がないわけではなく、雨漏りに苦しんで水の落ちてこないわずかの場所に小さくなって寝たような思い出すらも、それにもう一つのお天気がつきまとっていてそれがうららかなお天気なのだ。そしてそれが思い出のつねに主たるお天気だ。

だから人間は思い出に化かされやすい。戦争中雑草やさなぎを食べなければならなかった思い出でもお天気の方の感傷に耽ればなつかしくさえなるのだ。

東京の方ではあのころついに二ヶ月近い欠配になった。