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あすはてんきになれ

明日は天気になれ

坂口 安吾

「西日本新聞 第二四九四六号~第二五〇四六号」1953(昭和28)年1月2日~4月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 114,679 字 · 228 页

青空文庫

神薬の話

神薬の話

終戦後、私が非常に恩恵に浴して有難いと思っているのは、DDTとペニシリン及びその一族の青カビ薬である。

終戦直後、歯の劇痛に二ヶ月というもの苦しめられて、氷で冷やしながら呻りつづけたことがあった。歯痛は私の持病で、これには毎年泣かされたものであるが、ペニシリンが流布してからの昨今はもう問題ではない。

終戦前後東京にハンランしたシラミも、夏の大敵のノミも、DDTの登場にあうや問題ではなくなった。コリーという毛の多い犬と同居生活していても、まれに一匹のノミを室内に発見して大騒ぎするような昨今である。

これぞ文明の神器と私は大そう感激して、DDT、ペニシリン、オーレオマイシン、クロロマイセチン、テラマイシンという神族をわが家へ勧請し、一タン緩急にそなえて崇敬をはらっている。

友人は面倒がはぶけるから大そう喜んで、各員ならびに各員の家族が病気になると、わが家へやってくる。ひどい奴は電話で、

「どうでえ。君ンとこにオーダンにきく薬はねえか。すまねえが、ちょいと効能書を読んでみてくれ」

こういう結果になったについては、私に甚だ愚かな悪癖があったせいだ。