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あすはてんきになれ

明日は天気になれ

坂口 安吾

「西日本新聞 第二四九四六号~第二五〇四六号」1953(昭和28)年1月2日~4月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 114,679 字 · 228 页

青空文庫

雪国の夜の凄味といえば、大雪の降りつもりつつある時にはあらゆる音がなくなってしまうもので、夜の屋内でコタツに当たりながら底の知れない無音状態を知覚しつつある時はやや無気味である。それは屋内においてのことで、屋外は雪降りで明かるくてさしたる凄味はないのである。

雪の夜のコタツは怪談のさかえるにふさわしい場であるが、雪そのものは怪談のタネには向かないものである。

日本人は怪談が好きである。怪談というものの真打は幽霊で、キツネ、タヌキ、雪女等の妖怪変化の類は前座にすぎない。そして、雪女の怪が、雪国生まれの私にすらソラゾラしいように、妖怪変化の類は所詮人智に及ばず、どことなく間がぬけていて愛嬌があるものだ。ところが、幽霊という大真打はそうはいかない。

要するに幽霊の凄味は、人に恨みがあるものかないものか、という凄味で、われわれの血肉に響いて通じるものがある。

そして日本にこれほど怪談がはびこり栄えたというのも、泣く子と地頭にかてない庶民が権力に抵抗する最後のものとして、これしか武器がなかったせいかも知れない。

ところがこの幽霊にふるえているのが自分も幽霊になる必要のある弱くて正直な庶民の方で、悪党や権力者は幽霊をせせら笑っていられる怪力を持っているから始末がわるい。