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あすはてんきになれ

明日は天気になれ

坂口 安吾

「西日本新聞 第二四九四六号~第二五〇四六号」1953(昭和28)年1月2日~4月13日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 114,679 字 · 228 页

青空文庫

九州では痛いというのも味覚のうちで、チョイとナイフで腕を斬って、血をすすって「うむ、これはいける」とたのしむ。そういうような心境が発達もしくは転化して、カニミソに至って極まったところへ、白秋先生が誕生したりしていよいよ天下の大事になったのではないかという風に空想したのである。

ある料理をすすめて客人にもてなす。「いかがですか、うまいですか」「ハ、ちょっと痛いです」というような会話の発生しうる場合は、カニミソのほかにはめったに考えられないばかりでなく、カニミソにおいては、そういう会話の発生するのが当然なのだから凄味がある。

しかし、この二ツの珍妙な食べ物は、いかにも愛嬌があって食べてみると、バカバカしかったり、痛かったりするだけだけれども、そのもたらす余韻というものは、たのしく、また、なつかしい。

一ツはいかにも手がこんで、文明開化の如くだけれども、腹の中で自然にまとまるものを先に慌てて作ったオモムキであるし、一ツは野蛮そのものの如くであるが、実はむしろカニそのものに噛みつくよりも一歩料理に近づいているのかも知れない。

善良で素朴な魂が自我流に編みだした独特の通味というより仕方がなく、私は時々、酒ズシとカニミソが九州という善良な魂のような気がして仕方がない時があるのである。