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かんかんむしはうたう
かんかん虫は唄う
吉川 英治
「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页
お槙は男の腕に拱まれたまま、投げるようにからだを崩して、
「呆れたでしょう」と、仰向いて、ちょっと理性めいたことを言った。
「何がですか」
「だって、高瀬の夫人であるくせに、こんな強要をしてさ」
「今の上流の奥さんたちは、そんなことは、一つの娯楽ぐらいにしか考えていないでしょう」
「じゃ、私ばかりじゃないのね。――だけれど島崎さん、あんたいったい、幾人ぐらい女のパトロンがあるの」
「幾人? 冗談じゃありません。男のなら、ないこともないが」
「知っていますよ、私に、隠したって駄目駄目。だからね、そんな者はみんなやめてよ、私が、三人分でも、四人分でも、力になってあげるから」
女の執拗さがそろそろ島崎を疲らしてきた。島崎はかなりよいほどに生返事をしているのであったけれど、彼女には、それが人気者の偉さに見えた。そして今夜失望している幾人かの女性もあるだろうと思いながら、自分の幸福感を刺戟した。やがて男のからだを揺すぶってみた。島崎はまかせていた。家鴨の愉悦するような女の嬌態が、しきりとくすぐったく思えた。
「ね。ね」
お槙は、もう自分のものであるように、島崎に唇を命じた。