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かんかんむしはうたう
かんかん虫は唄う
吉川 英治
「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页
「ばか言ってやがら」
連中は服さなかった。
「――十四のトム公が、誰を恐喝するんでえ。何か、寝ぼけているんだろう。トム公は、このとおり、盲目の女親を養っているんだから、あいまいな嫌疑で、連れて行かれちゃ困ら」
「そうだ。それとも、警察じゃ、女親は、乾干しになっても、いいと言うのか」
ガラス工場の職工もいた、南京墓の番人もいた、貧乏異人館のコックもいた、競馬場の馬糞さらいもいた、チイハの運送屋もいた。みんなそれぞれ、一理屈を酬いた。
だが、無力の者の力が、いかに多数でもイクォール無力だった。すくなくも、巡査部長の佩剣に一触の感も与えはしない。
「じゃお前らも、本署まで、一緒に来たらどうか」
「…………」
その間に、トム公は、スタスタと自分で大股に濶歩して、相沢の大通りへ出た。巡査は追いかけて、彼の小さな両腕を左右からねじ取った。深夜の冷たい街路には、木桟の目隠し窓をつけた監獄馬車が、青い角燈をともして待っていた。
トム公は、馬車の中へと突き飛ばされた。その途端に、暴風のような長屋の同胞たちの喚きに交じって、ひとりの盲目が、取りみだして叫ぶ声を彼は聞きのがさなかった。