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かんかんむしはうたう
かんかん虫は唄う
吉川 英治
「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页
と、野太い声で呼びあった。
紺ガスリの羽織の長い紐を、首へ引っかけているのもあった。バプテスト神学校の制服もあった。西洋乞食のようなセラパンもあった。それは雑多な若者の混色ではあったが、ゴロ歯のさつま下駄と、桜の仕込み杖とによって統一された争闘的団体の色があった。
「愚連隊だな、貴様たちは」
そう言って、馬車の上から睥睨した巡査も、巨浪の意志が、岩の上の物を持って去るように、苦もなく、地上へひき下ろされて、いきなり、ドタ靴とごろ歯とで、踏ンづけられていた。
「愚連隊だがどうした」
「トム公を拘引するなら、吾々を同伴しろ。弱い者いじめをするな」
「民権蹂躪じゃ」
「かまわん、馬車をやれ」
「やれ、やれ、どこまでも!」
ひとりは、占領した馭者台に、大股をひろげて、鞭を振った。七、八人は、中へはいって、巡査と格闘した。三、四人は、馬車の外へ蛙の目刺みたいにブラ下がった。
馬車の中でも、激しい格闘の物音がくりかえされている。馭者台のそばに立ったマドロスは、警鈴をつかんで、大きく振りながら、深夜の異人館町を驚かしつつ奔馳してゆく。
その間に、反抗力のなくなった警官のからだが、一町ごとに、捨てられて行った。