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かんかんむしはうたう
かんかん虫は唄う
吉川 英治
「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页
そばの卓に、四、五人の商館番頭らしい背広服の一かたまりが、フォークの忙しない間に、さかんに、谷戸橋の河から金時計が出るといううわさをしていた。
「うそだろう、河の底から、そんなに無数の金時計が出るなんて、どう考えても、お伽噺じゃないか」
「うそだと思うなら、行って見たまえ」
その人々の話はむきだった。
ここばかりでなく、お光とトム公は、路上でも、そんな熱病のようなうわさを、幾たびも耳にした。
「たいへんだよ、いくらでも人が出て来るんだ。あの谷戸橋を中心に」
「ほんとかなあ」
「慾ッて、ひどいもんだなア」
「実際に、河の底から、そんな金時計が出るなら、僕らだって、勤めを休んで、一日ぐらい真っ黒になってもいいがな」
コック部屋から、ビヤ樽のような腹をつき出して、ここの主人が言った。
「だめですよ、もう……。巡査が来て、すっかり、縄を張って、しまいましたから」
「じゃ、まったく、出たのかあ?」
「なんでも、九時頃までに、われがちに河へはいって、あの穢い底をかき廻した者が、みんなで四十個とか七十個とか、金時計をさがし出したって言いますぜ」
「うまくやりゃあがッたな」
「ところが、はやく、一つでも、見つけて、逃げたやつアいいでしょうが、慾の皮の突っ張り放題に、いつまで、血眼でいた連中は、そのうちに、警察署から来て、みんな、代物を吐き出さ