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かんかんむしはうたう
かんかん虫は唄う
吉川 英治
「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页
れた上にふン捕まってしまったそうです」
「ははは、そいつアよかった。さんざん、金時計を鵜に呑ませておいて、一網に、吐き出させるなんて、警察も抜け目がない」
「しかし、いったいそんな高価な金属品を、どうして、あんな河の中へ捨てたのだろう。まさか、金持の道楽じゃあるまいがね」
「それが、疑問なんですよ」
お光が、卓へ勘定をならべたので、トム公は、満腹のバンドをゆるめながら、外へ出た。
そして、お光を待っていると、彼女は、紙入れからべつにして来たらしい一円紙幣を、トム公の手ににぎらせて、
「あばよ」
と、元の道へ戻りかけた。
「お光さん、どこへ?」
「心配だから、もういちど、倶楽部へ帰ってみようと思うのさ」
「心配って、何が」
お光は、往来を見まわしながら、トム公のそばへ寄ってささやいた。
「ことによると、李鴻章が、首を縊るかも知れない」
「? ……」
トム公には、分らなかった。
「どうして?」
「今、話していたろう、河から金時計が湧くっていう話。……あれはネ李鴻章が、この夏、密輸入をして一儲けしようとして失策ったしろものなんだよ」
「ヘエ」
「おまえだって、聞いてるだろう」
「話は聞いてるけれど、どうして河の中へなんぞ、捨てちまッたんだろう」