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かんかんむしはうたう
かんかん虫は唄う
吉川 英治
「週刊朝日」1930(昭和5)年10月号~1931(昭和6)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 91,006 字 · 182 页
そして、こんな言葉をつけ加えた。
「実あ、あっしも、まさか船渠の中でそんな仕事をしようとは思わなかったのですが、横浜へ稼ぎに出て、ろくな仕事もなく、飯にも困ってしまったので、ちょッくら、かんかん虫ッてやつになって、一日、あそこへ働きに行ったんです。――すると、あの騒ぎでしょう。おまけに、あっしの鼻ッ先へ、オペラバッグが飛んで来たので、ごたごた騒ぎに、目ぼしい金属品を三ツ四ツ抜いたんですが、帰りとなると、門衛や私服が出口に詰めこんでいるので、しまった、と思ったので側にいたのろまそうな男のポケットへ品物を筒抜けさせて、指環だけを、ここへ」
と、大きな口を開いて、自分の喉仏を指さしながら、
「嚥んじまったんです」
「じゃ指環は、いちど、君のお腹の中をくぐッたの」
「まさか」
と、巾着ッ切の常は、すこし明るく笑った。
「何しろ、わけを聞いてみりゃ、重々、すみません。何時なん時でも、自首をして、その亀田さんとかを貰い下げにいたします」
「きっとだね」
「へい」
「じゃ、ほんとの住所を書いといてくれないか」
「ここへ知らせて下さりゃ、いつでも、入監の支度をして、出て参ります」