Japanische Klassiker mit Furigana
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さんごくし
三国志(一)
吉川 英治
Lesen Sie 三国志(一) (さんごくし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 309.839 Zeichen · 622 Bildschirme
「はい」
「千億の民の幸いを思いなさい。老先のないこの母ひとりなどが何であろう。そなたの心が――せっかく奮い起した大志が――この母ひとりのために鈍るものならば、母は、億民のために生命を縮めても、そなたを励ましたいと思うほどですよ」
「あ。母上」
玄徳は驚いて、ほんとにそういう決心もしかねない母の袂にすがって、
「悪うござりました。もう決して女々しい心はもちません。あしたの朝は、夜の明けぬうちにここを去りますから、どうかただ一晩だけお側において下さいまし」
「…………」
老母も、くずれるように、地へ膝をついた。そして、玄徳の体を、そっと抱いて、白髪の鬢をふるわせながらささやいた。
「阿備や……。だが、わたしはね、亡きお父さんの代りにもなっていうのだよ。今のは、お父さまのお声だよ。お叱りだよ。――あしたの朝は、近所の人の人目にかからないように、暗いうちに立っておくれね」
そういうと、老母はいそいそと母屋のほうへ立ち去った。
間もなく、厨のほうから、夕餉を炊ぐ煙が這ってきた。失意の子のために、母はなにか温かい物でも夕餉にと煮炊きしているらしいのであった。
玄徳は、その間に、蓆機へ寄って、織りのこして行った幾枚かの蓆を織りあげていた。